SES(システム・エンジニアリング・サービス)が「やめとけ」と言われるのは、多重下請けで商流が深くなりやすいこと、働く場所の客先と評価する所属会社が分かれていること、案件を自分で選びにくく次の案件までの待機もありうることの3つが重なりやすいためです。
ただし、3つの重さはSES企業が商流のどこで仕事を受けているかと、社内の仕組みで大きく変わります。元請に近い案件が多い会社や、評価の基準と案件の決め方を開示している会社であれば、同じSESでも働き方の実感は違ってきます。
SESで積んだ設計や運用の経験は、自社開発や事業会社の正社員求人でも必須要件の中心にあたる経験です。自社開発の経験そのものを応募の条件にする求人は限られるため、移るかどうかは、今の経験を求人の書き方に照らして判断できます。
SESは客先に常駐して技術者が業務を担う準委任の契約形態
SESは、エンジニアを雇用する会社が顧客企業と契約を結び、顧客のシステム開発やインフラ構築の業務を自社の技術者に担わせる契約の形態です。公正取引委員会の「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月公表)は、SESを準委任契約で常駐型が多い契約と定義しています。
準委任は、仕事の完成ではなく、業務を行うこと自体を引き受ける契約です。ここで扱うのは、SES企業に正社員として雇用されて客先に常駐し、中途で自社開発や事業会社への転職を考えている経験者のエンジニアの働き方です。
SESと近い働き方との違いは、主に働く場所と、誰が仕事の指示を出すかにあります。
働き方 | 主に働く場所 | 仕事の指示を出す側 | 仕事の中身 |
|---|---|---|---|
SES(準委任) | 客先 | 雇用しているSES企業 | 客先の開発や運用の業務を担う |
労働者派遣 | 派遣先 | 派遣先 | 派遣先の指示のもとで働く |
受託開発(請負) | 自社または客先 | 雇用している受託開発の会社 | 請け負ったシステムを完成させて納める |
自社開発・事業会社 | 自社 | 自社 | 自社のサービスやプロダクトを開発する |
(編集部の整理)
指示の線引きを定めているのは、厚生労働省の基準です。「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、以下37号告示)は、請負の形で自社の労働者を働かせる事業主が、業務の遂行方法の指示、業務の遂行に関する評価、労働時間の管理、配置の決定と変更などを自ら行わなければ、労働者派遣事業を行う事業主として扱うと定めています。
同省の「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」は、準委任にも同じ考え方が当てはまり、客先と技術者のあいだに実態として指揮命令の関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣に当たると示しています。SESでも、決まりの上で仕事の指示と評価を担うのは、技術者を雇用している所属会社です。
「やめとけ」と言われる3つの理由と、会社で変わる範囲
理由として挙がる3つは、商流の深さ、成果が評価に届きにくいこと、案件の選びにくさと待機の期間です。どれもSESという契約の形に付いてくる面がある一方で、所属する会社が商流のどこにいるか、評価と配置をどう運用しているかによって、重さは変わります。
多重下請けで商流が深くなりやすい
ソフトウェアの開発では、発注者から元請、中間の下請、最終の下請へと仕事が流れる多重下請けの構造ができやすく、SESの案件もその中に組み込まれる形です。公正取引委員会の報告書は、発注者のニーズの多様化やプログラム言語などの専門性、1社だけでは必要な人員を確保できないといった理由から外注が積極的に使われ、一定規模以上の開発では多重下請構造型のサプライチェーンが形成されていると分析しています。
商流が深くなると、実際には業務を行わない会社が間に入る場面も出てきます。同じ報告書の法人向けアンケートでは、商流に形式的に関与するだけで実際の業務を行わずに利益を上げる「中抜き」事業者の存在を感じたことがある割合が、自社の取引上の位置によって違いました。
自社の取引上の位置 | 「中抜き」事業者の存在を感じたことがある |
|---|---|
全体 | 25.9% |
元請 | 18.5% |
中間下請 | 29.2% |
最終下請 | 33.5% |
出所: 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月29日公表・法人向けアンケート)。
自由回答には「客先常駐だと途中の商流で実質的に何もしない中抜き業者が何重にも存在することがあった」という声も載っています。間に入る会社が多いほど、客先が払う金額のうち所属会社に届く分は小さくなりやすく、客先で方針を決める人との距離も遠くなりがちです。
重さを左右するのは、所属会社が商流のどの位置で仕事を受けているかです。報告書の定義で元請は、基本的にエンドユーザーから直接受注する事業者を指します。元請やエンドユーザーから直接受ける案件が多い会社ほど、間に入る会社は少なくなります。
働く客先と、評価する所属会社が分かれる
SESのエンジニアは毎日の仕事を客先で行う一方、評価を受けるのは雇用している所属会社です。37号告示は、労働者派遣と区別される条件の1つに、業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を事業主が自ら行うことを挙げており、SESの評価は所属会社が自ら行うのが決まりの上の前提です。
評価する上司が同じ現場にいない場合、日々の仕事ぶりは主に本人の報告や客先からの聞き取りを通じて伝わります。客先で出した成果が評価に届きにくいと感じる人がいるのは、働く場所と評価する会社が分かれているためです。
客先の担当者から直接細かな指示を受ける状態も、決まりの上では適正ではありません。疑義応答集(第3集)は、会議やチャットツールで客先の担当者から受注者側の開発担当者へ直接、業務の遂行方法や労働時間などの指示が行われていると認められる場合は偽装請負と判断されると示しています。2026年5月25日には、同じ考え方がアジャイル型開発以外のシステム開発にも当てはまるとする問い(Q8)が加わりました。
会社による違いが出るのは、現場の近くに所属会社の管理責任者がいるか、評価面談の頻度と基準を示しているか、客先からの評価をどう反映するかです。疑義応答集(第3集)も、受注者が管理責任者を選任するなどして自ら指揮命令を行う体制を確立しておくことが必要だとしています。
案件を自分で選びにくく、待機の期間もありうる
SESでどの客先のどの案件に入るかを決めるのは所属会社で、本人の希望は会社の営業と契約の状況を通じて反映される仕組みです。37号告示は配置等の決定と変更を事業主が自ら行うことも同じく条件に挙げ、疑義応答集(第3集)も、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり就業を拒否したりする場合は適正な請負等と認められないとしています。
配置を決めるのが所属会社であるため、希望の技術や業務の案件にすぐ入れるとは限りません。案件と案件のあいだに、次の配属先が決まるまでの待機の期間が生じることもあります。
待機中の給与の扱いは会社ごとに違います。待機を会社の判断による休業として扱う場合に関わるのが、労働基準法第26条の休業手当です。同条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は休業期間中に平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないと定めています。
会社による違いが出るのは、案件の希望を出す仕組みがあるか、扱う案件の数と種類、待機中の給与と過ごし方(研修や社内の開発に充てるか)です。
SESで積める経験と、続けやすいSES企業を見分ける5つの点
SESは、複数の客先で異なる業界の業務と技術、開発の進め方に触れながら、新しい現場に短い期間で入って成果を出す経験を積める働き方です。続けるにしても移るにしても、所属会社の仕組みを次の5点で確かめると、「やめとけ」の理由が自分にどこまで当てはまるかを見積もれます。
確かめる点 | 聞き方の例 | 分かること |
|---|---|---|
商流上の位置 | 主な案件をエンドユーザーや元請から直接受けているか | 間に入る会社の数と、客先で方針を決める人との距離 |
案件の決め方 | 希望の技術や業務を出す仕組みがあり、どう反映するか | 経験を積みたい方向へ案件を寄せられるか |
評価の仕組み | 誰が、何を基準に、どの頻度で評価するか | 客先での成果が評価と昇給に届くか |
単価と給与の関係 | 案件の単価と給与の関係を開示しているか | 単価が上がったときに給与へ反映されるか |
待機中の扱い | 待機中の給与と、その期間に任される仕事 | 案件が途切れたときの収入と過ごし方 |
(編集部の整理)
案件の単価と年収の関係、統計で見たSESの年収の水準は「SESの年収|統計の区分と正社員求人で見る相場」で詳しく扱いました。
自社開発の正社員求人が必須要件に書く経験
自社開発や事業会社の正社員求人が必須要件に最も多く書くのは経験年数で、設計と運用・保守の経験が続きます。自社開発・事業会社での経験そのものや要件定義の経験を必須要件に書く求人はごく一部で、歓迎要件の側に多く書かれていました。
Offers の自社開発の正社員エンジニア求人で、必須要件と歓迎要件に書かれた経験を分けて数えました。
経験 | 必須要件に書く | 歓迎要件にだけ書く |
|---|---|---|
経験年数(「◯年以上」) | 63.1% | ― |
設計 | 27.1% | 24.3% |
運用・保守 | 21.8% | 17.2% |
言語・フレームワーク名と年数を同じ行に書く | 17.9% | ― |
Git・GitHub などのバージョン管理 | 9.6% | 2.1% |
チーム開発 | 8.3% | 3.2% |
(Offers(株式会社overflow)調べ・自社開発・自社サービス・自社プロダクトの語を含む正社員のエンジニア求人 n=436・2022年6月〜2026年10月公開)
必須要件の中心は、経験年数と設計・運用の経験です。SESの案件で設計や運用・保守を担ってきた期間は、そのまま必須要件に照らせる経験にあたります。
自社開発・事業会社での経験や要件定義は、表の項目と違って歓迎要件の側に多く書かれる経験です。歓迎要件は満たしていれば選考で評価が加わる項目なので、自社開発の経験が無いことは、多くの求人で応募の妨げになりにくいと読めます。
必須要件に並ぶのは業務で積んだ経験なので、業務で担った設計や運用の範囲を職務経歴書で具体的に示すことが、必須要件と照らし合わせて読んでもらう近道です。
Offers では、プロフィールを登録すると、経験に関心を持った企業からスカウトが届きます。Offers にSESで積んだ経験を登録し、届いた求人の必須要件と歓迎要件を今の経験と照らし合わせてください。
SESの経験を職務経歴書で示す
SESの経験は、案件ごとに担当した工程、チームの規模と自分の役割、使った技術、期間を分けて書くと、求人の必須要件と照らし合わせやすくなります。客先名を出せない場合は、業界とシステムの種類で書けば十分です。
「設計」「運用・保守」のように求人が使う語で担当範囲を書き、何年担ったかを添えておくと、経験年数を必須に書く求人に対しても条件を満たすかが伝わります。退職の段取りと職務経歴書の書き方は「SES退職の流れと注意点|自社開発への転職準備」にまとめました。
自社開発の正社員求人の提示年収は上限の中央値869万円
自社開発などの語を含むOffersの正社員エンジニア求人のうち、年収の下限と上限を記載した求人では、提示年収の上限の中央値が869万円、下限の中央値が500万円でした。上限が800万円以上の求人は6割を超えます。
指標 | 値 |
|---|---|
年収の下限の中央値 | 500万円 |
年収の上限の中央値 | 869万円 |
上限が800万円以上の求人 | 65.1% |
上限が1,000万円以上の求人 | 41.8% |
(Offers(株式会社overflow)調べ・自社開発・自社サービス・自社プロダクトの語を含み年収の下限と上限を記載した正社員のエンジニア求人 n=433・2022年6月〜2026年10月公開)
求人の年収は下限と上限の幅で示され、幅のどこで提示されるかは経験と任される役割で決まります。応募の前に幅の両端を確かめ、設計や運用の経験年数とチームでの役割を職務経歴書で示しておくと、提示の根拠を面接で話し合いやすくなります。
SESから自社開発へ移るときの進め方
SESから自社開発や事業会社へ正社員で移るときは、在職中に転職活動を始め、経験を求人の必須要件の語で棚卸しし、応募先でも評価と体制を確かめる順で進めると無理がありません。
在職中に始め、契約の区切りを見て退職日を決める
客先との契約には期間があるため、退職の時期は所属会社と相談しながら契約の区切りに合わせると、引き継ぎを進めやすくなります。内定が出てから退職日を決めれば、収入が途切れる期間を作らずに済みます。
求人の必須要件と歓迎要件を読み分ける
必須要件は応募の条件で、歓迎要件は満たしていれば評価が加わる項目です。必須要件の経験年数と設計・運用の経験を満たしているかを先に確かめ、要件定義や自社サービスに近い立場での経験は、歓迎要件に照らして強みとして書き添えます。
移った先でも評価と体制を確かめる
自社開発や事業会社でも、評価の基準、チームの体制、任される範囲は会社によって異なるのが実情です。面接では、SESで感じた3つの理由に当たる点として、誰が何を基準に評価するか、配属とチームの決め方、開発の体制を聞いておくと、移った後の働き方を見積もれます。
元請として開発を請け負うSIerの働き方と、SIerについて同じように言われる理由は、「SIerはやめとけと言われる理由と企業選びの基準」で扱いました。
SESで積んだ経験は、自社開発の求人でも必須要件の中心にあたります。Offers のプロフィールに経験を書き、届いたスカウトの求人で必須要件と歓迎要件、提示年収の幅を確かめながら、次の職場を選んでください。

