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意識障害
森江祥平
パート2:問診、身体所見から鑑別を絞る
意識障害:問診から予想される疾患
突然倒れた 脳卒中、くも膜下出血、け
いれん、急性心筋梗塞、致
死的不整脈
慢性腎不全 尿毒症、高K血症
急性の経過 感染症、炎症、薬剤、中毒、
外傷、電解質・代謝異常な
ど
慢性肝障害、肝硬変 肝性脳症
慢性の経過 腫瘍、炎症、代謝異常、変
性疾患、慢性硬膜下血腫な
ど
糖尿病 低血糖、糖尿病性ケトアシ
ドーシス、高血糖高浸透圧
症候群
突然の頭痛 脳出血、くも膜下出血 悪性腫瘍 高Ca血症、Trousseau症候群、
脳転移、癌性髄膜炎など
頭部をぶつけた 頭蓋内血腫、脳挫傷 大酒家 急性アルコール中毒、ビタ
ミンB1欠乏症、Wernicke脳
症 、肝性脳症
発熱などの感染症状がある 敗血症、髄膜炎・脳炎 精神疾患の既往、空の薬包
が多数ある
薬物中毒、水中毒(統合失
調症)
閉鎖空間での不完全燃焼 CO中毒
収縮期血圧(mmHg) 頭蓋内疾患がある尤度比(LR)
<90 0.03
90〜99 0.08
100〜109 0.08
110〜119 0.21
120〜129 0.45
130〜139 1.5
140〜149 1.89
150〜159 2.09
160〜169 4.31
170〜179 6.09
180≦ 26.43
Ikeda M,Matsunaga T, Irabu N, et al.Using vital signs to diagnose impaired consciousness:cross sectional
observational study. BMJ. 2002;325:800 bmj.325.7368.800
血圧と頭蓋内疾患との関連
脳卒中疑う所見があっても
頭蓋外の病変が疑われる
高血圧+徐脈は頭蓋内
圧亢進状態を示唆する
(Cushing現象)
眼 所見
共同偏視 患側:テント上脳出血
健側:テント下脳出血、けいれん
下方:視床出血
正中位:橋出血
過度な縮瞳
Pinpoint pupil
橋梗塞・出血、有機リン中毒、オピオイド中毒
対光反射の消失 脳幹障害
瞳孔不同 片側脳幹障害、動眼神経麻痺、Horner症候群
頭位変換眼球反射(人形の目反射) 両側障害あれば脳幹障害
眼球結膜黄染 肝障害、肝性脳症
頭蓋内疾患がある可能性
対光反射の消失 3.56
1mm以上の瞳孔不同 9.00
Tokuda Y,Nakazato N,Stein GH.Pupillary evaluation for differential diagnosis of coma.Postgard Med J. 2003;79:49-51. PM 12566553
身体診察 -特に眼、呼吸、四肢に注目-
呼吸
Cheyne-Stokes呼吸 過換気と無呼吸を繰り返す
→両側大脳半球、間脳、橋上部の障害、心不全、尿毒症
Kussmaul呼吸 深くて早い呼吸
→糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症など代謝性アシドーシスの代償
失調性呼吸 不規則な呼吸
→延髄の障害を示唆
四肢
錐体路症状 Babinski反射陽性、Chaddock徴候、腱反射亢進
四肢の麻痺の有無 疼痛刺激への反応の左右差、腕落下試験、膝落下試験で麻痺側は速く落ち
る
髄膜刺激徴候
→髄膜炎、くも膜下出
血
項部硬直、Kernig′s徴候、jolt accentuation
肝性脳症 羽ばたき振戦
転換性障害 顔の上で腕落下試験行うと顔を避けるように落下
身体診察 -特に眼、呼吸、四肢に注目-
検査をどのように組み立てましょう?
緊急度
検査前確率
検査の簡便性
血液検査は30分〜1時間かかる
動脈血液ガス
• 数分で結果が出る
• 血糖、電解質(Na、Ca、K)、
pH、PaO2、PaCO2、
HCO3、乳酸がわかる
低酸素血症、二酸化炭素貯留、
低Na血症、高Ca血症、血糖異常、
末梢循環不全が評価できる!
画像検査や髄液検査、脳波などを組み合わせて病態を探っていく
一過性意識障害
👉失神? けいれん(てんかん)?
○確認するポイント 問診の例・身体所見
1.発症様式 いつどのように気を失ったか?どういう姿勢だっ
たか?
2.意識 今の意識は普段と変わりないか?
3.意識消失の時間 どのくらい気を失ってたか?
4.前駆症状の有無 「気が遠くなる」などの訴えがなかったか?
5.痙攣の有無 眼を上転させたり、手足をばたつかせる動きはな
かったか?
6.随伴症状 舌を噛んでないか、尿失禁ないか
ここの判別が大事!
失神とけいれんの鑑別
失神発作 けいれん発作
発症様式 排泄後や長時間の立位・座位:状況失神
起立時:起立性低血圧
食事中、食後:食後低血圧
臥位:心血管性
特に関連なし
意識レベル 普段と同じ意識状態まで回復 数分以上意識障害遷延することもある
意識消失の時間 20〜30秒ほど 数分以上
前駆症状 悪心・嘔吐
発汗
腹部不快感
血の気が引くような感覚など
前兆
いやな臭い
叫び声、異様な雰囲気
けいれんの有無 ほとんどない、あっても数秒 開眼し、眼球上転、間代性けいれん
尿失禁 なし あり
舌咬傷 なし ときにあり 特に舌側面
その他 血中乳酸値や血中アンモニア値の上昇
①急性発症
②短時間
③完全回復
日本内科学会認定医制度審議会 救急委員会編:内科救急診療指針 1st Edition.東京,日本内科学会,2011.より一部改変
失神vsけいれんのスコアリング
+2点 舌咬傷あり
+1点 意識消失前に既視感があった
+1点 感情的なストレスが関与していた
+1点 奇声を発する、顔をゆがめるなど異常な行動があった
+1点 発作時の頭部を左右どちらかに向けていた
+1点 発作後の意識障害の遷延
−2点 発作前に発汗があった
−2点 長時間の座位・立位後であった
−2点 血の気が引くようなくらくら、ふーっとするような感覚があった
合計≧1点 けいれん
合計<1点 失神
感度94% 特異度96%
Robert Sheldon,et al.Historical Criteria That Distinguish Syncope From Seizures;J Am Coll Cardiol. 2002;40(1):142-148.
心血管性失神を疑うポイント
• 前駆症状なし
• 臥位発症、労作時発症
• 心血管リスクあり
• 大動脈解離・肺血栓塞栓症を疑う症状がある
• 心疾患を示唆する身体所見(心雑音や脈の不整など)
• 突然死の家族歴
• 心電図異常
心電図やエコーで評価しよう
まとめ
❶ 病歴や身体所見から
幅広い鑑別を絞っていく
❷ 一過性意識障害は失神か否かを評価する
❸ 失神であれば心血管性失神を念頭に評価

意識障害 パート2 問診、身体所見

Editor's Notes

  • #4 脳卒中を疑う片麻痺があるような状況でも血圧が思ったより低いようであれば頭蓋外の病変を疑う
  • #9 中外医学社 坂本壮 著 救急外来ただいま診断中!を参考 倒れたことで外傷を追ってるかもしれないし、外傷の原因として意識消失発作があったのではないかと考えを巡らせる
  • #10 失神後に座位のままだったり、不整脈が持続していると、脳血流がなかなか再開されずに痙攣を起こすこともある 本人は発作時のことがわからないことが多いので目撃者いれば、詳細に問診をとる 一部改変を鬼才
  • #11 スコアリングを使いこなすというよりも、ポイントを押さえた問診、所見が取れるかが大事 このスライドからはその疾患らしさを感じ取って欲しい 過呼吸による誘発?
  • #12 失神患者をみたら、心血管性失神を除外することを心がける 予後不良 初回の心電図で診断に至るのは2〜6%。1回の心電図で異常なくても否定できない。