脳死ドナーの管理指針2021
JCHO 中京病院 救急科/院内ドナーコーディネーター
黒木雄一
はじめに
• 脳死ドナーの呼吸循環管理は,その特殊性か
ら,集中治療を専門とする医師でさえも難渋
することが多い.
• 当院での過去8例の経験をもとに,独自の指針
を提示する.
目次
1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
目次
1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
呼吸管理
自発呼吸消失,咳反射消失により痰貯留による無気肺や
肺炎を高率に発症する.
サクションチューブによる吸痰では不十分なため,気管
支鏡を用いた吸痰が必要になることが多い.
肺保護戦略に従い,1回換気量6~8ml/kg,PEEP5~
10cmH2Oに保つことが適切であるとされている.
当院では理学療法士に肺理学療法を依頼している
背側無気肺を解除するため,腹臥位療法が有効という報
告があるが,現状として当院では行っていない
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1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
脳死と循環
脳死患者の血圧と心拍数
 初期:Cushing現象(中脳~橋の虚血)→BP↑、HR↓
 中期:延髄虚血→圧受容体反射消失→BP↑、HR↑
 後期:交感神経失調による血管拡張+尿崩症による脱水→BP↓
蘇生後症候群や脳傷害に伴う高サイトカイン血症
血管拡張→カテコラミン需要(敗血症性ショックに類似)
視床下部ー下垂体系機能障害
バゾプレッシン低下→尿崩症による脱水
ステロイドホルモン低下→カテコラミン感受性低下
甲状腺ホルモン低下→カテコラミン感受性低下
循環管理方法
 中心静脈カテーテル
 トリプルルーメン,内頸静脈穿刺を第一選択とする
 輸液
 尿崩症による脱水があるため,尿量を上回る十分な輸液をする.
 昇圧剤
 臓器血流低下の懸念から,ノルアドレナリンは避けるべきという意見があるが,ドパミ
ンのみでは血圧を維持できないことが多い.
 当院では,主にノルアドレナリンを使用しているが,特に問題ない.
 バゾプレッシン
 [ピトレシン®1A(20単位/1mL)+生食49mL](0.4単位/mL)で希釈し,シリンジポン
プを用いて投与する.
 バゾプレッシン感受性は個人差が大きいので,投与調節は少しずつが良い.
 尿量≧3mL/kg/hrで,0.1~0.5mL/hずつ投与量を上げ,尿量≦1mL/kg/hrで,0.1~
0.5mL/hずつ投与量を下げる.
 MAX:5mL/h(2単位/hr)
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1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
脳死ドナーに対するホルモン補充療法
海外ではバゾプレッシン、甲状腺ホルモン、ステロイドに
よるtriple hormone therapyがドナーの循環を改善し、移植
成績を向上させた報告がある (Transplantation 2003)
脳死ドナーを対象としたフランスでの前向き多施設研究で
は,低用量ステロイド投与がカテコラミン需要を有意に減
らすことができたことが示されている (Crit Care 2014)
当院では,2018年よりステロイド補充療法を行っており,
全例が昇圧剤を離脱している
甲状腺ホルモンの補充は当院の現状では行っていない
ステロイド補充療法
投与開始時期
 循環維持のため昇圧剤投与が必要となったとき
投与方法
 敗血症性ショック時のステロイド投与方法に準じる
 ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ®など)200-300mg/dayを分4ある
いは持続投与
期待される効果
 昇圧剤離脱:ステロイドを投与するようになってからは,全例が昇圧
剤を離脱している(法的脳死判定時)
 輸液量減量:循環が安定するため,輸液量が少なくてすむ
 ステロイド投与により,循環管理は楽になる
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1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
感染対策
脳死患者は肺炎やカテーテル感染を高率に合併する.
気管支鏡による積極的な吸痰を行い,肺炎の発症を予防
することが重要である.
中心静脈カテーテルは留置期間が感染率と相関するため、
挿入のタイミングについての考慮が必要である.
ドナーへの抗菌薬投与について定まった見解はないため,
メディカルコンサルタントに相談するのもよい.
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1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
血糖・電解質管理
極端な血糖異常や,電解質異常があると,脳死判定できな
くなってしまうので注意する.
高Na血症は,グラフト(特に肝臓)の予後を悪化させるこ
とが報告されている.
電解質異常で多いのは,尿崩症対策が不十分なために起こ
る高Na血症か,バゾプレッシン過量投与による低Na血症で
あるため,バゾプレッシンの適切な投与が重要である.
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1. 呼吸管理
2. 循環管理
3. ホルモン補充療法
4. 感染対策
5. 血糖・電解質管理
6. 輸血・血液製剤
輸血・血液製剤
ヘモグロビンの補正について定まった見解はない.現時点
では,ICU患者についての従来の指針に従い,Hb7.0g以上
を目安に輸血するのが適切かと思われる.
低アルブミン血症の補正についても一定の見解はない
法的脳死判定前に血液製剤を使用すると,患者側のコスト
になるため,できるだけ法的脳死判定終了後に使用するよ
うにする.
おわりに
法的脳死判定が終了するまでは,正式なドナーではない.
しかし,実際にドナー管理についての知識や労力が要求さ
れるのは,患者がドナー候補となってから法的脳死判定が
終了するまでの数日間で,この間に,主治医が疲弊するこ
とが多い.
できるだけ多くのスタッフが知識を共有し,協力し合うこ
とが大切である.

脳死ドナーの管理指針2021