超急性期脳梗塞
静注血栓溶解療法、血管内治療の適応を見逃さない!
益田赤十字病院
脳神経内科
青木慶仁
発症・発見~救急搬送
脳梗塞
脳出血やStroke mimics
血栓溶解療法(rt-PA投与)
それぞれの治療へ
血管内治療(血栓回収療法など)
心原性 非心原性
急性期薬物療法+リハビリテーション
慢性期再発予防(+リハビリテーション)
発症・発見~救急搬送
脳梗塞
脳出血やStroke mimics
血栓溶解療法(rt-PA投与)
それぞれの治療へ
血管内治療(血栓回収療法など)
心原性 非心原性
急性期薬物療法+リハビリテーション
慢性期再発予防(+リハビリテーション)
特に大動脈解離は除外を!
患者の来院までに
• 発症・発見時刻の確認
• バイタルと脈の整・不整の確認(→心原性かどうか)
• 顔面を含む片麻痺の有無の確認(→本当に脳卒中らしいか)
• 既往歴(→血栓溶解療法の禁忌事項はないか)
• 広範な虚血が予想されるかどうか
患者の来院までに
• 発症・発見時刻の確認
• バイタルと脈の整・不整の確認(→心原性かどうか)
• 顔面を含む片麻痺の有無の確認(→本当に脳卒中らしいか)
• 既往歴(→血栓溶解療法の禁忌事項はないか)
• 広範な虚血が予想されるかどうか
発症時刻の定義
「患者自身、あるいは症状出現時に目撃した人が報告した時刻」
上記が不明の場合、「患者が無症状であることが最後に確認された
時刻(最終健常確認時刻)」 → 発見された時刻ではないが。。
※起床時に症状を有していた場合は就寝前、あるいはその途中で無症状であることが
確認された時刻
※階段状増悪の場合、最初に症状が発現した時点
※一過性脳虚血発作(TIA)が前駆した場合は、症状がいったん完全に消失し、
二度目に症状が発現した時刻
日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改定部会.静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版(2019年3月)を参照して作成
患者の来院までに
• 発症・発見時刻の確認
• バイタルと脈の整・不整の確認(→心原性かどうか)
• 顔面を含む片麻痺の有無の確認(→本当に脳卒中らしいか)
• 既往歴(→血栓溶解療法の禁忌事項はないか)
• 広範な虚血が予想されるかどうか
患者の来院までに
• 発症・発見時刻の確認
• バイタルと脈の整・不整の確認(→心原性かどうか)
• 顔面を含む片麻痺の有無の確認(→本当に脳卒中らしいか)
• 既往歴(→血栓溶解療法の禁忌事項はないか)
• 広範な虚血が予想されるかどうか
rt-PAの適応外(禁忌)
(一項目でも当てはまれば投与しない)
日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改定部会.静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版(2019年3月)より
rt-PAの慎重投与
日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改定部会.静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版(2019年3月)より
患者の来院までに
• 発症・発見時刻の確認
• バイタルと脈の整・不整の確認(→心原性かどうか)
• 顔面を含む片麻痺の有無の確認(→本当に脳卒中らしいか)
• 既往歴(→血栓溶解療法の禁忌事項はないか)
• 広範な虚血が予想されるかどうか
ELVO screen
(Emergent Large-Vessel Occulusion)
① 共同偏視があるか(共同偏視があれば陽性)
② 物品を見せて物品呼称ができるか(答えられなければ陽性)
③ 片手の4本指を見せて指の答えられるか(答えられなければ陽性)
1つでも陽性があれば主幹動脈(内頚動脈もしくは中大脳動脈 M1)の閉塞あり
感度86%、特異度72%、偽陰性7%
Suzuki K. et al. Stroke . 2018 ;49 :2096-2101
『血管内治療の可能性もありそう』と考える
脳梗塞患者が来院
バイタル確認、検体検査や情報収集と並行して
National Institutes of Health
Stroke Scale(NIHSS)
をつける
他医師との情報共有や治療方針の決定にも関与します
項目を見ながらでいいのでできるだけ迅速に!
ここから本題
静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版
(2019年3月)から
発症時刻不明の脳梗塞に対する適応が少し変わりました
前提として
再灌流の目的は
『ペナンブラ(可逆的虚血領域)』
の救済にある
ペナンブラ
(可逆的虚血領域)
=
助かる可能性のある領域
虚血コア
(不可逆的虚血領域)
=
救えない領域
脳
=
CTの早期虚血性変化
MRI DWIでの高信号域
【患者】
64歳 男性
【主訴】
右上下肢が動かない、言葉が出ない
【現病歴】
来院の前日、22時に就寝しその際自覚症状はなかった。
来院当日の起床時、朝8時に右片麻痺の状態で家族に発見され、
発語もなく、9時に救急外来へ搬送された。
生来健康で常用薬はない。
【患者】
64歳 男性
【主訴】
右上下肢が動かない、言葉が出ない
【現病歴】
来院の前日、22時に就寝しその際自覚症状はなかった。
来院当日の起床時、朝8時に右片麻痺の状態で家族に発見され、
発語もなく、9時に救急外来へ搬送された。
生来健康で常用薬はない。
静注血栓溶解療法
(rt-PA投与)の適応
あり?なし?
発症時刻は。。。
来院前日、22時に就寝しその際自覚症状はなかった。
来院当日の朝8時に右片麻痺の状態で家族に発見され、
9時に救急外来へ搬送(患者から発症時刻は聴取できなかった)
発症時刻 ⇒ 不明 ⇒ 最終健常時刻 =来院前日の22時
つまり発症から11時間経過
⇒ rt-PA適応なし!!
発症時刻は。。。
来院前日、22時に就寝しその際自覚症状はなかった。
来院当日の朝8時に右片麻痺の状態で家族に発見され、
9時に救急外来へ搬送(患者から発症時刻は聴取できなかった)
発症時刻 ⇒ 不明 ⇒ 最終健常時刻 =来院前日の22時
つまり発症から11時間経過
⇒ rt-PA適応なし!!
発症時刻は。。。
来院前日、22時に就寝しその際自覚症状はなかった。
来院当日の朝8時に右片麻痺の状態で家族に発見され、
9時に救急外来へ搬送(患者から発症時刻は聴取できなかった)
発症時刻 ⇒ 不明 ⇒ 最終健常時刻 =来院前日の22時だが
画像所見から真の発症時刻を予測
発症時刻不明で発見から4.5時間以内なら
画像検査結果次第ではrt-PA適応となるかもしれない
rt-PAの慎重投与
日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改定部会.静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版(2019年3月)より
DWI-FLAIRミスマッチ
• 脳梗塞発症早期にMRIで拡散強調像(DWI)には高信号があるが、
fluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)では高信号がないこと
• 上記の場合には発症から4.5時間以内の可能性が高いとされる
Aoki J.et al. J Neurol Sci . 2010 ;293:39-44
Thomalla G.et al.Lancet Neurol. 2011 ;10:978-86
今回の例題では『DWI-FLAIRミスマッチ』が
あればrt-PAの投与を考慮することになります
経静脈的線溶療法
遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA)の静脈内
投与(0.6 mg/kg)は発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害
で慎重に適応判断された患者に対して勧められる
(推奨度A エビデンスレベル高)
患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラー
ゼ静注療法を始めることが勧められる
(推奨度A エビデンスレベル高)
発症時刻が不明な時、頭部MRI拡散強調画像の虚血変化がFLAIR画像で明瞭
でない場合にはアルテプラーゼ静注療法を行うことを考慮しても良い
(推奨度C エビデンスレベル中)
日本脳卒中学会.「脳卒中治療ガイドライン 2021」 協和企画 より
経静脈的線溶療法
遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA)の静脈内
投与(0.6 mg/kg)は発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害
で慎重に適応判断された患者に対して勧められる
(推奨度A エビデンスレベル高)
患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラー
ゼ静注療法を始めることが勧められる
(推奨度A エビデンスレベル高)
発症時刻が不明な時、頭部MRI拡散強調画像の虚血変化がFLAIR画像で明瞭
でない場合にはアルテプラーゼ静注療法を行うことを考慮しても良い
(推奨度C エビデンスレベル中)
日本脳卒中学会.「脳卒中治療ガイドライン 2021」 協和企画 より
推奨度C
定義:弱い推奨 内容:考慮しても良い、有効性が確立していない
エビデンスレベル中
重要なlimitationのある(結果に一貫性がない、方法論に欠陥、非直
接的である、不精確である)複数RCTによるエビデンスもしくは観察研
究などによる非常に強いエビデンスがある。もしさらなる研究が実施さ
れた場合、評価が変わる可能性が高い。
例1)当日午前9時に発症、午前10時に来院
例2)発症時刻不明、当日午前9時に発見、午前10時に来院
例3)発症時刻不明、当日午前9時に発見、午後2時に来院
例1)当日午前9時に発症、午前10時に来院
⇒発症時間から4.5時間以内 ⇒ rt-PA投与適応あり
例2)発症時刻不明、当日午前9時に発見、午前10時に来院
⇒DWI-FLAIRミスマッチがあればrt-PA投与を考慮
例3)発症時刻不明、当日午前9時に発見、午後2時に来院
⇒発見から5時間経過 ⇒ rt-PA投与は禁忌で適応なし
推奨のグレード
Grade of recommendations
内容
Type of recommendations
A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C1 行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない
C2 科学的根拠がないので、勧められない
D 行わないよう勧められる
日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会.経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月 を参照して作成
脳卒中の recommendation grade に関する分類(2015)
血管内治療の適応①
発症早期の急性期脳梗塞は、
①前方循環系の主幹動脈(内頚動脈または中大脳動脈 M1 部)の閉塞
②発症前のmodified Rankin scale(mRS)スコアが 0 または 1
③頭部CTまたは頭部MRIのDWIでAlberta Stroke Programme Early CT
score(ASPECTS)が 6 点以上
④NIHSSが 6 以上
⑤年齢 18 歳以上
上記すべてを満たす症例でrt-PAを含む内科的治療に追加して
発症6時間以内に(可及的速やかに)機械的血栓回収療法の開始が勧められる
(グレードA)
日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会.経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月 を参照して作成
ASPECTS(+W)
M1
C
L
IC
I
M2
M3
M4
M5
M6
W
C: caudate
L: lentiform
I: insular ribbon
IC: internal caosule
M1: anterior MCA cortex
M2: MCA cortex lateral to insular ribbon
M3: posterior MCA cortex
M4~6: immediately superior to M1, M2, and M3, rostral to basal ganglia
(W: deep white matter)
ASPECTS:0~10点
ASPECTS+W: 0~11点
Barber PA, et al. Lancet. 2000; 355: 1670-74 を参照して作成
血管内治療の適応②
最終健常確認時刻から 6 時間を超えている場合は
• 内頚動脈 または 中大脳動脈 M1 部の急性閉塞
• 脳梗塞発症前の mRS スコアが 0 または 1
• NIHSS スコアが 10 以上かつ MRIのDWIでASPECTSが 7 点以上
上記を満たす症例に対して、最終健常確認時刻から 16 時間以内に治療を開
始することが強く勧められる(グレード A)
また、DWI-clinicalミスマッチもしくはDWI-perfusionミスマッチがあると
判断される症例に対し、最終健常確認時刻から 24 時間以内に治療を
開始することが勧められる(グレード B)
日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会.経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月 を参照して作成
DWI-clinicalミスマッチとDWI-perfusionミスマッチ
•DWI-clinicalミスマッチ
DWI高信号域(不可逆的虚血領域=虚血コア)と
神経症状とのミスマッチ
•DWI-perfusionミスマッチ
DWI高信号域(不可逆的虚血領域=虚血コア)と
灌流低下域とのミスマッチ
Nogeira RG. et al. N Engl J Med . 2018 ;378:11-21.
Albers GW.et al. N Engl J Med . 2018 ;378:708-718.
血管内治療の適応③
• ASPECTS が 6 点未満の広範囲虚血例
• NIHSS スコアが 6 未満の軽症例
• 中大脳動脈 M2 部や 脳底動脈 の 急性脳動脈閉塞例
• 発症前 mRS スコアが 2 以上
上記に対して発症 6 時間以内に血栓回収療法を行うことは、
症例ごとに適応を慎重に検討し、有効性が安全性を上回ると
判断した場合に考慮しても良い(グレードC)
日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会.経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月 を参照して作成
脳梗塞での再灌流療法は時間が命!
再灌流療法の適応について、救急隊やコメディカルも理解を深め
共通認識を持って診療にあたる必要あり
少しでも適応があるのではないかと思ったら
脳神経内科もしくは脳神経外科へのコンサルトを!
• 再灌流療法の目的はペナンブラの救済
DWI高信号は不可逆的虚血領域(虚血コア)
• 最終健常時刻から4.5時間越えに
rt-PA投与適応が隠れているかも!
キーワードは『DWI-FLAIRミスマッチ』
• 血管内治療の適応は最終健常時刻から最大24時間
迷ったら脳神経内科/外科call
(発症時刻、NIHSS、病前ADLのチェック)
まとめ

超急性期脳梗塞 静注血栓溶解療法、血管内治療の適応を見逃さない!【ADVANCED】