知の跳躍
学際・超学際研究イノベーションの
現場としての地球研
近藤康久・熊澤輝一・菊地直樹・鎌谷かおる・
安富奈津子・内山愉太・林 憲吾・橋本慧子・村松 伸
• 2001年に文部科学省附置研究所として創設。京都市北区上賀茂に所在
• 地球環境問題を「人と自然の相互作用環」の視点から研究
• 文理融合型の共同研究プロジェクトを時限付きで推進
• 社会の多様な主体との協働による超学際研究が持ち味
• 持続可能性国際研究プログラム「Future Earth」のアジアセンター
2
トランスディシプリナリー(超学際)研究
Transdisciplinary Research
“Science with Society”
• Co-design of research agenda
• Co-production of knowledge
• Co-dissemination of the results
with societal stakeholders (actors) such as
governmental agencies, funders, industries, NPOs and
civil society
(Mauser et al. 2013 https://doi.org/10.1016/j.cosust.2013.07.001)
Transdisciplinary research is always a team science,
targeting a real world problem, and
should ideally be a participatory action research.
(Hadorn et al. eds. 2007; Lang et al. 2012 https://doi.org/10.1007/s11625-011-0149-x) 3
プログラム-プロジェクト制
7つの時限付きプロジェクトが進行中+終了31プロジェクト
(総合地球環境学研究所リーフレット2017)
プロジェクトの形成
(総合地球環境学研究所要覧2017)
知の跳躍仮説
• 学際/超学際共同研究の現場においては、
学術知と学術知あるいは社会知の融合が起
こり、そこから研究者が学び、考え、新しい知
的展開を遂げる。
• 知はいかに跳躍するか?
知の跳躍条件仮説
1. 偶然的条件 1a. プロジェクトリーダー(PL)のバックグラウンド、経歴
2. 必然的条件 2a. リーダーシップのあり方
2b. プロジェクトの仮説、および、想定されたゴール
2c. メンバーの選択、成長
2d. 組織とガバナンス
2e. 使用したツールとその発見・発明
2f. プロジェクト運営におけるケア
方法:順応的-半構造化インタビュー
• プロジェクトリーダー(PL)
2時間×2回
• PLが指名したメンバー2名
2時間×1回ずつ
• 各回とも話し手1名に対し
聞き手3〜4名
• 7つのプロジェクトの18名に、合
わせて54時間に及ぶインタ
ビューを実施
• 録音→文字起こし→言説分析
村松 先行するプロジェクトで、プロジェクトリーダーのディシプリンが強かったっていうの
は、具体的にはどこのことですか。
湯本 わかりやすい失敗例でいうと、高相徳志郎19
さんの西表プロジェクトでしょう。
村松 ああ、そういうことなんですね。
1.13 「環境史年表」を HuTime20
で表現することで列島プロジェクトの研究課題と歴史の見方を共
有した
村松 私たちのところもそうですが、ヒューマニティーズとサイエンスに壁があって、難しいで
すね。
湯本 難しいです。
村松 それはどうやって乗り越えているのか、乗り越えられなかったのか。
湯本 共通して取り組める課題を提案できるかどうかでしょう。「賢明な利用」とは何かを、
散々みんなで考えました。手法としては重要だったのは、環境史年表です。年表にさまざ
まな情報を細大もらさずにすべて落とし込む。たまたま関野樹21
さんが、HuTime を作っ
ていたというのが大きかった。地理情報は GIS で何でもかんでもどんどん詰め込んでい
けます。それが地理学という学問を大きく変えた。統合ツールとしての地図の大革命です
よね。でも歴史というと、統合ツールであるはずの年表って、模造紙に書くような、とて
もスペースとして限られたものとしかイメージできなかった。いっぽうで、大部の本1冊
が「XX 年表」だったりして、まったく一覧性がない。その点、HuTime は伸び縮み自由
ですよね。そこにいろいろなディシプリンの人が自分の関心に引っかかった、時間情報の
タグがついたものをとにかく入れていって、あとでフィルターにかけて、ソートして、年
表化したのが環境史年表。関野さんのやり方を見て、これは使えると思ったので、使わせ
ていただきました。「賢明な利用」という概念として考えていくのと、環境史年表のツー
ルである HuTime にみんな放り込んでいきましょうと各班にお願いしました。その中から
「賢明な利用」のいい例、逆に破綻した例をピックアップして歴史的な視座で考えよう
と。全体会議は年に 1 回しかしないんですけども、全体会議では前の年に出した宿題を提
出してもらって、さらに次の宿題を出すっていうことだけをずっと繰り返してきました。
共通した目標、それを具体化した宿題がないと、みんな自分のしたいことやってしまう
し、テーマとしては拡散してしまう。この部分だけはみんなで一緒に考えていこうという
宿題を出して、それをもとに毎年の全体会議で議論を深めることが、全体的にインター
ディシプリナリーなやり方を浸透させていったと思います。
1.14 バラバラな研究成果を束ねるためのツール:「キーワード」「宿題」「若手研究員」「年
表」
村松 特に湯本さんのところはいろいろな地域のことをやってきたので、今までバラバラに見え
ていたものを束ねるための何かとして、キーワードでまとめたり、概念化したりすること
が必要だったのですね。
19 地球研プロジェクト「亜熱帯島嶼における自然環境と人間社会システムの相互作用(西表プロ)」(プロ
列島プロジェクト湯本PLのインタビューから抜粋
方法:順応的-半構造化インタビュー
〈大まかな質問事項〉
1. 研究者になるまで
• 子どもの頃
• 研究分野・テーマに至る経緯
2. 研究者になってから
• 地球研に来るまでのキャリア
• 出会って刺激を受けた人々
3. 地球研とのかかわり
• きっかけ
• プロジェクト形成において議論
したこと、刺激を受けた人々
• 振り返って
村松 先行するプロジェクトで、プロジェクトリーダーのディシプリンが強かったっていうの
は、具体的にはどこのことですか。
湯本 わかりやすい失敗例でいうと、高相徳志郎19
さんの西表プロジェクトでしょう。
村松 ああ、そういうことなんですね。
1.13 「環境史年表」を HuTime20
で表現することで列島プロジェクトの研究課題と歴史の見方を共
有した
村松 私たちのところもそうですが、ヒューマニティーズとサイエンスに壁があって、難しいで
すね。
湯本 難しいです。
村松 それはどうやって乗り越えているのか、乗り越えられなかったのか。
湯本 共通して取り組める課題を提案できるかどうかでしょう。「賢明な利用」とは何かを、
散々みんなで考えました。手法としては重要だったのは、環境史年表です。年表にさまざ
まな情報を細大もらさずにすべて落とし込む。たまたま関野樹21
さんが、HuTime を作っ
ていたというのが大きかった。地理情報は GIS で何でもかんでもどんどん詰め込んでい
けます。それが地理学という学問を大きく変えた。統合ツールとしての地図の大革命です
よね。でも歴史というと、統合ツールであるはずの年表って、模造紙に書くような、とて
もスペースとして限られたものとしかイメージできなかった。いっぽうで、大部の本1冊
が「XX 年表」だったりして、まったく一覧性がない。その点、HuTime は伸び縮み自由
ですよね。そこにいろいろなディシプリンの人が自分の関心に引っかかった、時間情報の
タグがついたものをとにかく入れていって、あとでフィルターにかけて、ソートして、年
表化したのが環境史年表。関野さんのやり方を見て、これは使えると思ったので、使わせ
ていただきました。「賢明な利用」という概念として考えていくのと、環境史年表のツー
ルである HuTime にみんな放り込んでいきましょうと各班にお願いしました。その中から
「賢明な利用」のいい例、逆に破綻した例をピックアップして歴史的な視座で考えよう
と。全体会議は年に 1 回しかしないんですけども、全体会議では前の年に出した宿題を提
出してもらって、さらに次の宿題を出すっていうことだけをずっと繰り返してきました。
共通した目標、それを具体化した宿題がないと、みんな自分のしたいことやってしまう
し、テーマとしては拡散してしまう。この部分だけはみんなで一緒に考えていこうという
宿題を出して、それをもとに毎年の全体会議で議論を深めることが、全体的にインター
ディシプリナリーなやり方を浸透させていったと思います。
1.14 バラバラな研究成果を束ねるためのツール:「キーワード」「宿題」「若手研究員」「年
表」
村松 特に湯本さんのところはいろいろな地域のことをやってきたので、今までバラバラに見え
ていたものを束ねるための何かとして、キーワードでまとめたり、概念化したりすること
が必要だったのですね。
19 地球研プロジェクト「亜熱帯島嶼における自然環境と人間社会システムの相互作用(西表プロ)」(プロ
列島プロジェクト湯本PLのインタビューから抜粋
対象プロジェクト
• 日本列島における人間-自然相互関係
• 中央ユーラシア乾燥地の変遷
• 環境変化とインダス文明
• メガシティが地球環境に及ぼすインパクト
• 砂漠化をめぐる風と人と土
• 東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリ
ティーの向上
結果:ナラティブから見えてきたこと
• 知の跳躍は個人レベルで起こる
– 自らの知的好奇心に駆動された“ひとり学際研究”
• プロジェクトは期待通りの成果を挙げる
– “局所的な跳躍はあったが、全体は淡々と進んだ”
• 成功者バイアスには要注意
「中央ユーラシア乾燥地の変遷」
プロジェクトのインタビューから
自分たちのアドバンテージを活かしながら
他の分野との境界領域を研究することが
自分たちの分野の発展にもなるし
研究全体の発展にもなる。
自然科学
プロジェクトメンバーは120人以上
リモート
センシング
考古
歴史
民族
政治 経済
生態 土壌
水文気象
湖底
堆積物
雪氷
コア
年輪
古代 現代
人文・社会科学歴史再構築班 現状分析班
人との出会いもあれば、
データとの出会いもある。
予期せぬ出会いもあれば、
仕掛ける出会いもある。
自然科学
配置換えでジャンプ!
リモート
センシング
考古
歴史
民族
政治 経済
生態 土壌
水文気象
湖底
堆積物
雪氷
コア
年輪
古代 現代
人文・社会科学歴史再構築班 現状分析班
A研究員
B教授
共同研究の極意
「どういうデータが欲しいのか言ってく
れたら、自分たちはいくらでも取る」
はNG。
共同研究ってのは、こっちが作った料理を相手
に食べてもらわなきゃいけないんだから、
相手がどういうものを食べたいのかわからない
で勝手に作ったって、おいしいわけないじゃな
いの。
–– Bさん(文化人類学・教授クラス)
まとめ
• 学際/超学際研究プロジェクトのリーダーとメンバー
に対する順応的-半構造化インタビュー
• 共同研究のメタ分析
• 研究者のオーラルヒストリー
• 知の跳躍は個人レベルで起こる
• ベストプラクティスに学ぶ姿勢が重要
• 聞き手である研究者も学び・考え・活力を得る
• 「跳躍」を量的に評価する方法の開発が課題
ご清聴ありがとうございました kondo@chikyu.ac.jp

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