SES(システムエンジニアリングサービス)で働いていると、客先の案件が続いている最中に「今辞めてもよいのか」「誰に先に話せばよいのか」と迷う人は少なくありません。雇用主と働く場所が別々にあるという、SESならではの構造があるからです。
退職の手続きそのものは、ほかの会社員と大きく変わりません。違いが出るのは、伝える相手の順番と、客先の契約との関係です。辞め方の段取りと法律上の考え方を押さえたうえで、次の職場として自社開発企業を考えるときに求人が何を見ているかまで、順に整理しました。
SESを退職するときの基本の流れ
SESを退職するときは、雇用主である所属のSES企業に退職の意思を伝え、その企業が客先との契約を調整するのが基本の流れです。エンジニアが雇用契約を結んでいる相手は所属企業で、客先と契約しているのは所属企業どうしだからです。この構造を踏まえて、進める順番を次の表に整理しました。
順番 | やること | SESで気をつける点 |
|---|---|---|
1 | 次の職場の方向を決め、在職中に転職活動を始める | 退職を先に決めると、収入と職歴に空白ができやすい |
2 | 就業規則と雇用契約書を確かめる | 退職の申出期限・有給休暇の残日数・貸与物の扱い |
3 | 所属企業の上司や営業担当に退職の意思を伝える | 客先の担当者に先に話さない |
4 | 退職日と客先を離れる日を合わせる | 客先との契約の更新時期に合わせると調整しやすい |
5 | 退職届を出す | 退職日を書面に残す |
6 | 引き継ぎ資料を作り、後任に渡す | 客先の情報は客先のルールに従って扱う |
7 | 有給休暇を消化し、貸与物を返して書類を受け取る | 離職票・源泉徴収票など |
退職の意思は客先ではなく所属企業に先に伝える
退職の意思を最初に伝える相手は、所属しているSES企業の上司、または案件を担当している営業です。客先の担当者と毎日顔を合わせていても、雇用契約の当事者ではないため、客先には所属企業から話を通してもらうのが筋です。
客先に先に話してしまうと、所属企業が知らないところで後任の手配や契約の見直しが話題になり、関係がこじれやすくなります。常駐中で上司と会う機会が少ない場合は、まずメールやチャットで面談の時間をもらい、面談の場で退職の意思と希望の退職日を伝えましょう。
伝える時期は客先との契約の更新時期に合わせる
伝える時期は、客先との契約が更新される前に合わせるのが最も調整しやすい方法です。SES企業と客先の契約は、一定の期間ごとに更新を判断する形が一般的です。更新の判断より前に退職の意思が分かれば、所属企業は後任を探すか、契約を更新しないかを選べます。
就業規則が「退職の1か月前までに申し出る」などと定めている場合は、その期日も守ると引き継ぎの時間を確保できます。次の章で見るとおり法律上の期限は別にありますが、円満に辞めるには、所属企業が客先と話す時間を残しておくことが大切です。
客先との契約の途中でも退職できる理由
客先との契約やプロジェクトが続いていても、SES企業の正社員は退職できる。これが法律上の答えです。客先との契約は所属企業と客先の間の約束であって、エンジニア個人と所属企業の雇用契約とは別のものだからです。
期間の定めのない雇用(正社員)について、民法第627条第1項は、当事者はいつでも解約の申入れができ、雇用は申入れの日から2週間を経過すると終了すると定めています。会社の承諾がなくても、申入れから2週間で雇用は終わるということです。
契約社員など期間の定めがある雇用の場合
契約社員のように雇用の期間が決まっている場合、期間の途中で辞めるには原則として「やむを得ない事由」が必要です。民法第628条は、やむを得ない事由があるときは直ちに契約を解除できると定める一方、その事由が一方の過失によって生じたときは相手方への損害賠償の責任を負うとしています。
ただし、契約期間が1年を超える有期の労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除く)で働く人は、労働基準法第137条(附則)により、契約期間の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることでいつでも退職できます。高度の専門的知識等を持ちその知識を要する業務に就く人と、満60歳以上の人との契約(同法第14条第1項各号)はこの例外の対象外です。
期間の定めがある雇用で途中退職を考えるなら、まず契約期間の満了日を確かめ、満了に合わせて更新しない形で辞められないかを所属企業と相談しましょう。自分がどちらの雇用なのかは、雇用契約書の「契約期間」の欄で確かめられます。
損害賠償や違約金を求められたときの考え方
「途中で辞めたら違約金を払ってもらう」とあらかじめ決めておくことは、労働基準法で禁じられた取り決めです。労働基準法第16条は、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約をしてはならないと定めています。
契約期間の満了前に退職すると違約金が発生する、と説明されることがありますが、雇用契約で違約金の額を決めておくこと自体が認められていません。所属企業が客先との契約で負う違約金を、そのまま社員に請求するという取り決めを雇用契約に置くこともできません。
賠償の話が出る余地を小さくする段取り
損害賠償の話が出る余地を小さくするのは、申入れの期間を守り、引き継ぎを記録に残すことです。実際に問題になりやすいのは、連絡を絶って出社しなくなる、担当業務の情報を渡さずに辞めるといった進め方です。
- 退職の意思と退職日は、メールや退職届など書面で残す
- 担当していた作業・手順・未完了のタスクを引き継ぎ資料にまとめ、渡した日を記録する
- 客先の資料や貸与された端末は、退職日までに返す
それでも損害賠償や違約金を理由に退職を認めないと言われたら、一人で抱えずに、各都道府県の労働局などに置かれた総合労働相談コーナーに相談してください。
引き止めと有給休暇への対応
引き止めには、退職の意思と退職日を変えないことを最初の面談ではっきり伝えるのが最も確実な対応です。SESでは「後任が見つかるまで待ってほしい」「今の案件が終わるまで」と頼まれることがよくありますが、後任を手配するのは所属企業の役割です。
引き継ぎに必要な期間は相談に応じつつ、退職日そのものは先に決めて書面に残します。条件の改善を示されて残ると決める場合も、退職の理由だった点(担当工程・案件の選び方・年収)が本当に変わるのかを、口約束ではなく書面で確かめてから判断します。
有給休暇は退職日までの日程に組み込む
有給休暇は、引き継ぎの期間と消化の期間を分けて、退職日までの日程に組み込むのが確実です。年次有給休暇は、退職前であっても労働基準法第39条にもとづいて取得できる労働者の権利です。
先に残日数を人事に確かめ、「引き継ぎを◯日まで、その後は有給休暇を消化して◯日付で退職」という形で日程を示すと、所属企業も客先との調整を早めに組み立てられます。
退職後に必要な手続き
転職先が決まる前に退職した場合は、雇用保険・健康保険・年金の手続きを自分で進めます。転職先の入社日が退職日の翌日なら、健康保険と年金は転職先で切り替わるため、自分で行う手続きは多くありません。
手続き | 内容 |
|---|---|
雇用保険 | 離職票を受け取り、住所地のハローワークで基本手当(失業手当)の手続きをする |
健康保険 | 任意継続・国民健康保険・家族の扶養のいずれかを選ぶ(任意継続には申請の期限がある) |
年金 | 国民年金への切り替えを住所地の市区町村で行う |
税金 | 源泉徴収票を受け取り、年内に再就職しなければ確定申告に使う |
自己都合で退職した場合の雇用保険の給付制限
自己都合で退職した場合、退職日が2025年4月1日以降なら、雇用保険の基本手当が支給されない「給付制限」の期間は原則1か月です。厚生労働省の雇用保険Q&Aによると、2025年3月31日以前の退職では原則2か月でした。
給付制限は、受給手続きの日から原則7日を過ぎた翌日から始まります。退職日から遡って5年のうちに2回以上、正当な理由のない自己都合退職で受給資格の決定を受けた場合は3か月になります(厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q20・2026年9月確認)。1か月に短くなったとはいえ、その間は収入が途切れるため、在職中に次の職場を決めておく方が安心です。Offersなら、在職中でも正社員の求人を見比べながら次の職場を探せます。
自社開発に触れる求人が必須条件で求める経験
Offers に掲載された正社員エンジニア求人のうち、「自社開発」「自社サービス」「自社プロダクト」のいずれかの語がある求人(n=423)は、必須スキル/経験の欄(以下、必須条件の欄)に「3年以上」のような「N年以上」の語がある求人の割合が62.6%でした。
これらの語がないエンジニア求人(n=1,342)の47.3%より高い値です(Offers(株式会社overflow)調べ・2026年10月2日集計)。
自社開発を打ち出す求人ほど、経験の長さを応募の条件として明示する傾向が見えます。自社開発等の語がある求人について、必須条件の欄に次の語がある求人の割合を数えました。
必須条件の欄にある語 | 割合 |
|---|---|
「実務経験」「業務経験」「開発経験」のいずれか | 62.6% |
「N年以上」(経験年数) | 62.6% |
「設計」 | 29.3% |
「運用」「保守」のいずれか | 25.1% |
「Webアプリ」「Webサービス」「Web系」のいずれか | 24.6% |
「AWS」「GCP」「Google Cloud」「Azure」「クラウド」のいずれか | 18.0% |
「Git」(GitHub・GitLab を含む) | 10.2% |
「テスト」 | 9.7% |
「チーム開発」「チームでの開発」のいずれか | 8.5% |
「個人開発」「ポートフォリオ」「GitHub」のいずれか | 4.5% |
出所:Offers(株式会社overflow)調べ・自社開発等の語がある正社員エンジニア求人 n=423・2022年6月〜2026年9月公開・2026年10月2日集計。
必須条件の欄に「N年以上」の語がある265件のうち、主な年数の内訳は「3年以上」が38.1%、「1年以上」が31.3%、「2年以上」が26.4%、「5年以上」が9.4%でした。SESで客先の開発に携わった期間は、担当した工程と使った技術を具体的に示せば、開発の実務経験として説明しやすくなります。どこまでを経験年数に数えるかは応募先が判断します。
一方で、「個人開発」「ポートフォリオ」「GitHub」のいずれかの語が必須条件の欄にある求人は4.5%にとどまりました。自社開発への転職のために会社を辞めて個人開発に専念するより、在職中の案件で担った設計や運用の経験を言葉にする方が、求人の必須条件に直接応えられます。
応募を考えている自社開発企業が必須条件に何を書いているかは、実際の求人で確かめるのが確実です。Offersでは、自社サービスを開発する企業の正社員エンジニア求人を、必須条件や開発環境まで含めて確認できます。
SESの経験を職務経歴書に書くときの要点
SESの経験を職務経歴書に書くときは、案件ごとに自分が担当した工程と、その案件で決めたことを分けて書くのが要点です。客先が変わるたびに役割も変わるため、案件を並べるだけでは設計に関わったのか、実装だけだったのかが読み手に伝わりません。
書く項目 | 書き方の例 |
|---|---|
期間と体制 | 2023年4月〜2025年3月・開発チーム8名のうち自分はバックエンド担当 |
担当した工程 | 基本設計・詳細設計・実装・結合テスト・本番運用 |
使った技術 | 言語・フレームワーク・クラウド・CI の仕組み |
自分で決めたこと | テーブル設計の見直し、監視項目の追加など、判断した内容と理由 |
結果 | 障害件数・処理時間・リリース頻度など、変化が分かる事実 |
客先の社名やサービス名は、守秘義務の範囲を確かめ、業界と規模だけを書く形にします。構成の組み立て方はエンジニアの職務経歴書の書き方とレジュメとエンジニアの書き方で扱っています。
在職中に転職活動を始め、退職日は内定後に決める
自社開発企業への転職は、在職中に活動を始め、内定を得てから退職日を決める順番が最も負担の少ない進め方です。内定先の入社日から逆算して退職の意思を伝える日を決めれば、客先との契約の更新時期にも合わせられます。
退職を先に決めると、給付制限の期間や職歴の空白が生まれ、選考で焦りが出やすいのが難点です。活動にかかる期間の目安と退職のタイミングはエンジニアの転職活動期間と退職タイミングにまとめています。
SES退職で押さえておきたい要点
SESを退職するときに押さえておきたいのは、伝える相手・法律上の期限・辞めた後の段取りの3つです。
- 退職の意思は、客先ではなく所属のSES企業に先に伝える
- 正社員なら、民法第627条により申入れから2週間で雇用は終わる。客先との契約が続いていても辞められる
- 違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておくことは労働基準法第16条で禁じられている
- 2025年4月1日以降の自己都合退職では、雇用保険の給付制限は原則1か月
- 「自社開発」「自社サービス」「自社プロダクト」のいずれかの語がある求人は、これらの語がない求人より、必須スキル/経験の欄に「N年以上」の語がある割合が高く(62.6%対47.3%)、SESで担当した工程と期間を職務経歴書で言葉にすることが準備の中心になる
所属企業との調整に時間をかけられるよう、次の職場の見通しを立ててから退職を切り出すと、客先・所属企業・自分の三者にとって無理のない形で区切りをつけられます。

