【学校作業療法室から現場を支える】 課題解決を作戦会議で前向きに

【学校作業療法室から現場を支える】 課題解決を作戦会議で前向きに
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 岐阜県飛騨市は2023年度に全小中学校9校に「学校作業療法室」を設置した。月2回のペースで全校を訪問している作業療法士の奥津光佳さんに、インタビュー2回目では教員研修の様子や保護者とのやりとり、相談があった子どもたちにどのように接していくのかなど、具体的な実践内容を聞いた。(全3回)

「感覚プロファイル」で、感覚にも個性があることを知る

――教職員に対しては、どのような働き掛けをしているのでしょうか?

 先生方へは、知識を伝えるのではなくて体験してもらうことを大事にしています。「感覚プロファイル」という手法で、自分の感覚の個性を知ります。感覚の受け取り方、見え方の繊細さ、聞こえ方の繊細さ、あるいは鈍感さ、身体の感じやすさ・感じにくさを測るための評価用紙を使って、実際に先生方に自身の個性を知ってもらいます。

 その上で、「こういうタイプの子どもたちの間で、こういうことが起きやすいかもしれません」というふうに例示しつつ、作業療法士が何をやっているのかを体験してもらいながら伝えていく研修を実施しています。「元気のいい先生がいた時に、もしかしたら繊細系の子どもたちは、びっくりしたりすることがあるかもしれませんね」といった例え話をすると、先生方も「あー確かに」というように気付いたりすることはよくあります。

 先生方が自分の感覚の個性を知ることも大切ですが、体験してもらうことで視点を増やしてもらえるという面もあります。自分にも子どもにも感覚の個性があることを理解すると、子どもたちが「もしかしたら、こういうところで困っているかもしれない」と考えるヒントになります。実際に、研修後に先生を通して相談につながるお子さんもいます。

――そうした相談があった子どもにアプローチする場合は、どのような流れですか?

 先生から子どもについて相談があった場合は、まず生活場面の観察に行きます。特に可能であれば、問題が起こっている場面を見に行き、何が起きているのかを分析します。

 子どもたちから直接相談がある場合もあります。学校によっては「作業療法士さんと作戦会議したい人はいますか?」といったアンケートを子どもたちに配っています。また、子どもたちが悩み事を先生に相談してくれた時に、「OT(作業療法士)さんのところで作戦考えに行こうか?」というように、先生たちも積極的に作業療法士への相談を提案してくれています。

集中力を育む「作戦マン体操」を実施=奥津さん提供
集中力を育む「作戦マン体操」を実施=奥津さん提供

――そこで「作戦」という言葉が、また生きてくるんですね。

 「作戦」という言葉が大事なのは、作業療法士のところに行くことが、ポジティブな特別感になるためです。「あの子は問題があるからOTさんのところに行くんだ」というようなネガティブな特別感ではなくて、「作戦マン」などの効果で、最近は「OTさんのところに行く」と言うと「僕も行きたい」と声が上がるなど、作業療法士に会いに行くことがスペシャルなことになっているようです。

――さまざまな課題がある子どもたちに対しては、学校に来ている場面だけではなく、家庭や背景にもアプローチが必要になると思うのですが?

 作業療法士の強みは、広範囲理論であるということです。身体のこと、運動のこと、脳科学、心理学、また、この社会がどういう構成でできているのかという社会学的な分析も行います。子どもと対峙した時に、今生じている課題はどこから来ているのかということの分析を、必ずします。

 先生との関係なのか、それとも家庭の因子が関わっていてこの状態が起きているのか、その文脈と構造を読み解きながらアプローチしていくので、お子さんによっては家族を呼んで家族にアプローチすることもありますし、兄弟を含め家族全員に来ていただいて今後の生活の仕方や方向性について話し合うようなこともします。先生と検討して環境を整えたり、時には本人と話して「こういうことをできるようになってみないか?」と、積極的に提案して行くこともあります。状況を分解していきながら、必要なところにアプローチするというのがOTの役割になります。

 保護者に対しても、PTA総会などで作業療法士の学校での活動を紹介しています。保護者からは「OTさんと話せて、今までずっともやもやしていたことがスッキリした」や「なかなか話せない悩みを話すことができてよかった」といった感想を聞いています。最近は口コミでも広がっているらしく、保護者からの相談が増えています。保護者にとっても、特別な感じではなく、気軽に話に来ることができる立ち位置になってきているのかなと思います。

「作戦」という言葉が相談をポジティブにすると話す奥津さん
「作戦」という言葉が相談をポジティブにすると話す奥津さん

中学時代に作業療法士という仕事と出合う

――そもそも作業療法士の仕事を目指されたのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

 私はとてもコミュニケーションが苦手です。小学生の頃から人としゃべるのがうまくできなくて、休み時間は他の友だちをうらやましく眺めているような子どもでした。小さい頃から、「みんな、なんであんなに自然に仲良くできるんだろう」というのが不思議で、次第に人と仲良くなりたい、人のことを知りたいというニーズが自分のなかで高まっていきました。そして、中学生の頃に作業療法士という仕事を知って興味を持ちました。私の弟が身体障害があったので、リハビリに関わる職業は知っていて、その中にもどうやら理学療法士や言語聴覚士など種類があるらしく、中でも作業療法士は「作業」という、よく分からないものを取り扱う職業ということにすごく興味を持って、その後資格の取れる大学に進学したという流れです。

 そこで、山口清明OT(現NPO法人はびりす代表)と出会い、それまで学んだことと全く違う作業療法士の在り方を知って衝撃を受けたことが、現在につながっています。

 

【プロフィール】

奥津光佳(おくつ・みつよし) ㈱りすの実常務取締役、NPO法人はびりす正会員。1993年、神奈川生まれ。作業療法を学んでいた大学生の時に山口清明氏に出会い、まったく違う作業療法の世界を知り、山口氏を追って岐阜県で作業療法士としてのキャリアをスタート。山口氏らとNPO法人はびりすを設立する。現在、飛騨市内の小・中学校で作業療法士として勤務するほか、YouTubeなどでの発信にも積極的に取り組む。

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