【チェンジメーカーを育てる】地方の私立高校から教育を変える

【チェンジメーカーを育てる】地方の私立高校から教育を変える
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 伝統的なカトリック系ミッションスクールだった宇都宮海星女子学院中学・高校は、2023年度に星の杜中学・高校として生まれ変わった。世界10都市以上で海外留学を経験できる制度の導入など積極的にグローバル教育に取り組み、入学希望者も年々増加するなど注目を集めている。また、24年度には全国の私立中学・高校12校とコンソーシアムを立ち上げ、国内留学などの連携も始めた。これらの施策を推進する小野田一樹校長に、学校改革の現状や、私学を中心としたこれからの学校教育の在り方などを聞いた。(全2回)

教職員も危機感を共有し授業改革

 ――授業に関しては、どのように改革を進められましたか。

 まず座席をアイランド型と呼んでいる4人1グループとして、授業は基本的にグループワークにしました。先生が投げ掛けたことに対して、生徒がディスカッションしながら答えを出していくという授業スタイルを、ほとんどの授業で実施しています。

 これも、社会に出て本当に役に立つ人材を育てるという観点から、従来の先生の板書を黙々とノートに取る授業で大丈夫だろうか、という考えから取り入れました。社会人になるとほとんどの場合、他者とコミュニケーションを取りながら、チームで何かをすることが基本になります。例えばノーベル賞をとった京都大学の山中伸弥教授もiPS細胞を一人で見つけたわけじゃない。そこに優秀なチームがあってそのチームリーダーが山中教授だったということです。一人でやっているように見えるスポーツ選手も、いい結果が出せるのは、自分の才能もあるけれど、やっぱりチームが優秀だからです。いいチームを作れるということは、将来社会で活躍できるための大事なファクターだと思います。そういう時間をできるだけ取りながら、中高6年間を過ごしていくというのが、星の杜の授業の基本スタイルになっています。

「良いチーム作りができることが社会で活躍するには重要」と語る=撮影:大川原通之
「良いチーム作りができることが社会で活躍するには重要」と語る=撮影:大川原通之

 ――授業をする先生方にも、かなりの変化が必要だったのでは。

 先生方も戸惑いは大きかったと思います。ただ、本校は教員も人数が少ないので、その辺は割とスムーズに進めることができました。日本の教育が変わらない理由として、教員が変われないということも大きいですよね。では、なぜわれわれは変われたかというと、「この学校はこのままではまずい」と教職員みんなが思っていた、そこに尽きると思います。

 本校は私学なので異動がありません。教職員一丸となって、何としてでも魅力的な学校づくりをしなければならないという状況にあったということが、一番、ベースにあると思います。社会に、地域に必要とされる学校にならなければいけないし、そのためにはそういう人材を育成することが学校に求められる。

 では、そんな授業はどうやったらできるのか、教職員で研修をして焦点を絞っていきました。ドルトン東京学園や札幌新陽高校など、先端教育で知られる学校も見学しました。また、かえつ有明中学・高校の校長などを務めた教育改革の第一人者でいらっしゃる石川一郎先生に理事に入っていただき、カリキュラムの監修をしていただくなどして、授業を構築しました。石川先生には25年度から、本学園の理事長に就任していただいています。

生徒の4割が海外留学を経験

 ――具体的な教育内容としては、どのような改革を進められましたか。

 「チェンジメーカーの育成」というスクールミッションの下、探究学習やグローバル教育に力を入れています。探究学習では、デジタルデザイン、リベラルアーツ、イノベーションなどの本校オリジナルの授業を、外部の専門家を招いて実施しており、身近な課題や興味関心がある社会課題について探究していきます。中学校の「SDGs探究」では、SDGsの17の目標に沿って身近な問題を見つけ、校外活動を通して解決策を考えます。まとめとしてインドネシアのバリ島にあるグリーンスクールで、PBL形式(課題解決型学習)の研修に取り組みます。高校生は2年生で2つのコースに分かれます。そのうちの一つのディープラーニングコースでは「全世界探究」として、選択制の海外・国内のスタディツアーを実施しています。24年度には、探究の全国コンテストで上位入賞したり、アントレプレナーシップ系のコンテストで優勝したりする生徒が一気に増えました。

 グローバル教育については、まずは充実した留学制度が特徴です。本校は日本でトップクラスに生徒が留学する学校です。東京都内の高校生が留学する割合は約2%というデータがあります。各クラスに1人ぐらい留学してきた生徒がいるという感じです。しかし、本校は生徒の約40%が留学しています。各クラスの半分近くが、どこかの国に留学に行っていることになります。期間は1カ月以上1年以内で、学校側が用意したプログラムの中から国と期間を選んで、生徒一人で行きます。

 もちろんビザの手配や現地の学校とのやりとりなどは学校側が行いますが、基本一人で行くことになっているので、教員は空港の見送りにも行きません。1カ月~3カ月の短期留学は、現地の語学学校で英語漬けの日々を送ります。半年から1年になると単位にも絡んでくるので、現地の高校に通って授業を受けることになります。そこでの出席日数や成績を読み替えて、1年間留学しても3年で卒業できるカリキュラムにしています。

 世界中いろんな都市で学んで帰ってきて、またここでみんなと机を並べて勉強するということがすごくいい環境になってきましたし、留学したいということで本校を選ぶ生徒も多くなってきています。

「日本で一番留学している高校」ではないかと小野田氏=撮影:大川原通之
「日本で一番留学している高校」ではないかと小野田氏=撮影:大川原通之

 ――留学プログラムの設定などは、前職の経験を生かしているわけですね。

 まさに一番得意とするところです。留学先も以前から知っていたところもあれば、新しく開拓したところもあります。米国のサンディエゴやロサンゼルス、ニューヨーク、ボストン、カナダのバンクーバー、オーストラリアのシドニーなど、さまざまな都市を留学先に設定すると、それらを学校がコントロールするのは難しいのですが、そこは、これまでの知見を生かして仕組みを作りました。

 本当に社会で活躍できる人材を育てようとすると、日本人の一番の課題は英語力です。日本は、小学校から大学まで英語を必修で何年も勉強しているのに、あれだけ覚えた単語や文法を、大学受験をピークに忘れてしまい、結局は英語でコミュニケーションを取れない社会人になってしまう。

 そのため、まず、星の杜に入れば英語を話せるようになることを前提にカリキュラムを設計していきました。たくさんの留学プログラムを設け、英語の授業もコミュニケーションを中心に多く設定して、会話中心の授業をメインとしました。もちろん予算の問題があり、全ての家庭が留学に行けるわけではないのですが、通常の授業の中で英語でコミュニケーションが取れるようにするための設計をしていることも本校の特徴です。

全国12の私立高校とハイスクールコンソーシアムを設立

 ――留学といえば、他県の私立高校とコンソーシアムを立ち上げ、国内留学もスタートさせました。コンソーシアムを提唱した狙いは。

 旅行会社にいた時に、学校は他校と交わることを嫌がる印象がありました。修学旅行などでも「ホテルは他校と一緒にしないでほしい」とよく言われていました。そうは言っても、生徒は塾に行くといろいろな学校の子と普通に友達になって、楽しくやっている。高校3年間で限られた友達や限られた環境で生活しているのはもったいないと思ったのです。いろんな学校に行けたらいい。

 この学校に着任した時はコロナ禍だったので、試しにいくつかの高校に声を掛けて、オンラインで合同探究学習を実施したのです。学校をごちゃ混ぜにして、オンラインで4~5人のグループを作って、9月から翌年3月まで課題を設定して探究し、最後に発表会をしたのですが、生徒の評判も良くて結構、うまくいきました。

 立候補制で募集したら十数人の生徒が集まって、東京都や大阪府、福岡県などの学校の生徒とディスカッションして、半分ぐらいの子がグループのリーダーみたいなポジションで進めたのです。普段はおとなしい子が元気に取り組んでいたりして、議論が活発化していました。これは面白いなと思って、コロナが開けたらリアルでやりたいなと思っていました。

 その後、本校と同じような教育理念を掲げているドルトン東京学園の校長先生に話をしたら、「実はうちもやりたいと思っていた」と言われ、知っている先生たちに声を掛けたら、意外とそういう学校が多くて、全国12校が参加するコンソーシアムができました。

 国内留学は24年度についてはトライアルで、本校と静岡県の御殿場西高校、福岡県の福岡女子商業高校の3校で、1週間の国内留学を実施しました。これがすごく良くて、生徒を出す側も受ける側も両方ともメリットを感じました。

 25年度はコンソーシアム12校で、できるだけたくさんの学校に留学できるように進めています。

 もちろん単位や出席日数をどうするのかといった、いろいろな懸念点が各校あるのですが、本校は海外に1年間留学しても3年で卒業できるようにしているくらいですから、国内留学のハードルはほとんどありませんね。

国内留学も積極的に広げていきたいと話す=撮影:大川原通之
国内留学も積極的に広げていきたいと話す=撮影:大川原通之

 ――他の学校の生徒を受け入れて、どんなメリットがありましたか。

 まず、来てくれた生徒が、すごく本校のことを褒めてくれました。本校は校則がないので、生徒には金髪や茶髪がいっぱいいるのですが、英語が得意な生徒がたくさんいますし、チャイムがないことが当たり前になっているのですが、生徒がみんな授業に合わせて自主的に教室を移動することにも驚いていました。われわれにとっては当たり前のことを、「すごいね」と言ってくれる。本校の生徒は自信につながったようです。

 本校の生徒たちもおそらく、留学先でホストファミリーやその学校の生徒たちと交流する中で、さまざまな経験をして帰って来ているのでしょう。お互いに自分たちの良さを気付ける機会にもなるし、親元を離れてホームステイをして、全く見ず知らずの土地にポンと一人で入っていく経験は貴重です。あえてそういう環境に身を置くことを選択した生徒たちはすごいなと思います。

 ハイスクールコンソーシアムには、国内で特色のある教育をしている学校が参加しているので、相乗効果が生まれることを期待していますし、この動きは拡大させていきたいと思っています。

 ――当然、教職員の交流も視野に入っていると思うのですが。

 やりたいですね。コンソーシアム内でも最初から話が出ていたのですが、生徒よりハードルが高いのです。まずは住む場所ですね。生徒はホームステイをお願いすることができますが、教員が半年~1年間生活するとなると、住まいを確保しなければならないし、家賃などのコストもかかります。

 でも、そうした仕組みを整えて、いずれ実施すると思います。そのコストを上回るだけの効果が出ると思いますし、教員こそ、いろいろな地域の学校でその学校の生徒や教員同士が交流することで成長できると思うのです。今後は、こうした取り組みを一緒にやってくれる仲間、一緒に日本の教育を変えていく学校を増やしていきたいと思っています。

 ※「先を生きる」は今回で終了します。

【プロフィール】

小野田一樹(おのだ・かずき) 1974年生まれ、静岡県富士宮市出身。株式会社EDUCATION design 代表取締役。株式会社JTBで教育事業を担当。2020年6月にEDUCATION designを設立、同7月に川崎市にSDGsを運営に取り入れた保育所「みらい保育園」を開園。21年4月から星の杜中学・高校の前身の宇都宮海星女子学院中学・高校の校長補佐に着任し学校改革を進める。23年4月から星の杜中学・高校の副校長、24年4月から校長に就任。

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