中教審教育課程部会の「社会・地理歴史・公民ワーキングループ(WG)」の第2回会合が10月23日、オンラインで開かれ、社会・地理歴史・公民の目標の在り方や内容の整理を巡って議論が交わされた。文部科学省側から社会情勢の変化や教科書の分量が多過ぎるとの指摘などを踏まえて、指導方法の改善・充実に向けた論点が示されたのに対し、委員からは内容の精選や子どもたちの社会参画意識の涵養(かんよう)などを巡って意見が相次いだ。
会合では初めに文科省の担当者が、小中高での目標・内容の在り方に関する現状と課題について、教科書の分量が多過ぎるとの指摘などを踏まえた目標・内容・方法の系統的な整理や精選をはじめ、グローバル化や生成AIなどデジタル技術の発展、人口減少など社会情勢の変化、社会との関わりを実感できる学習活動が不十分との指摘を踏まえた社会参画意識に関する課題などを挙げた。
これを踏まえて内容の在り方について、グローバルな協調や世界共通の課題、社会構造の変化に伴うわが国固有の課題といった観点から内容のアップデートを検討することや、社会参画意識を高めていくために▽社会的事象等について調べまとめる技能を高める学習▽現実社会から学習課題を捉える地域調査等▽学校外の施設(博物館など)・人材との連携▽主権者として児童生徒の意見表明を推進する活動――といった学習を充実させてはどうかとのたたき台を示し、各委員からの意見を求めた。
内容の精選という視点から複数の委員が意見を述べた。桑原敏典委員(岡山大学学術研究院教育学域教授)は「子どもたちが学ぶべき課題は本当にたくさんあり、事務局からの提案にも情勢の変化に伴う学ぶべき課題というのが示されているが、これらを取り入れていくと、内容が多過ぎる問題が解決せず、考えないといけない。前回の改訂でもコンピテンシー(資質・能力)ベースに転換したにもかかわらず、多くの内容が継続された面があったと思う。思い切って見方・考え方、あるいはコンピテンシーベースで内容の精選を図っていく必要があると思う」と述べた。
鈴木裕行委員(東京都練馬区立谷原中学校校長、全国中学校社会科教育研究会会長)は、中学校現場の感覚として、「教科書の内容が全て学習指導要領に書かれているわけではないが、教員や生徒、保護者、一般の目からは、全て学習指導要領で示されたもので全部やるべきという感覚があるのではないかと思う。そのため教科書で触れない部分があると『やっていないじゃないか』と苦情につながるのが一例だ。こうした考え方の違いや教科書の取扱いも含めて、今回の改訂で明示した方が学習を組み立てやすくなるのではないか」と提案した。
山田圭一委員(千葉大学大学院人文科学研究院教授)は「コンテンツがアップデートされて追いつかず、内容が多過ぎるという点に同意する。やはり知識の内容より知識をどうやって獲得するのか、その方法を教えることが重要ではないかと思う。各教科の特性に応じた知識の獲得の方法について、現行よりもう少し手厚く記述していけるといいと思う」と述べた。
現実社会から学習課題を捉える点で、地域調査や社会参画意識の涵養に関する意見も相次いだ。
井田仁康委員(筑波大学名誉教授)は「本質的な概念をつくるにあたっては現実を知ることが必要であり、そういう意味で小学校、中学校、高校とスパイラル(連鎖)的に地域調査が行われることが望ましいと考える。ただ、このスパイラルが小中高ではっきり示されていないことが課題だと思う。今の学習指導要領では身近な地域の分野がかなり狭まっていて、今後、できなくなると危惧する先生も多いと聞いており、今の小学校の地域調査がしっかり継続することを確保することも重要だと思う」と述べた。
新保元康委員(特定非営利活動法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長)は「小学校の段階では、社会を発見することがまず大事なポイントだ。自分たちの周りの社会にどんな人がいて、どんな仕組みになっているかを知って、自分はどう生きていくべきかを学ぶ。それが参画につながると思うが、少し弱い気がする。また、人口減少は人口が単に減っているという問題ではなく、社会がどう変わってわれわれはどう対応して幸せな生活を維持するか、大変な問題だ。中学校では必ずしも学ばなくてもいいとなっているようだが、しっかり進めるべきだと思う」と強調した。
韮塚雄一委員(埼玉県小川町教育委員会おがわ学コーディネーター、城西大学経済学部非常勤講師)は、埼玉県で実践している子どもたちが地域課題を学ぶ学習活動を踏まえ、「学習指導要領で一番の目玉になるのが社会参画意識の涵養と受け止めており、1つの方法として、地域調査や地域をフィールドとしたさまざまな学習活動がとても有効だと考えている。ただ、中学校、高校の先生方は非常に多忙なので、先生方をバックアップする地域と連携できるような仕組み、地域と学校のニーズを結び付ける役割を果たす仕組みづくりを考えてほしい」と述べた。