国語の系統性の検討に着手 各領域の学習過程などを再整理

国語の系統性の検討に着手 各領域の学習過程などを再整理
国語ワーキンググループ(主査:島田康行筑波大学人文社会系教授)
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 次期学習指導要領の国語について検討している中教審教育課程部会のワーキンググループ(WG)は10月24日、第2回会合を開き、小学校から高校までの国語教育の系統性の議論に着手した。「読むこと」「話すこと」「聞くこと」「話し合うこと」「書くこと」の各領域の学習過程と、発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性を再整理したたたき台が示され、国語教育の体系化の考え方について委員が発表した。

系統性を再整理した2つのたたき台

 国語の系統性を巡っては、「思考力、判断力、表現力等」の学習過程が各領域で異なっており、各領域の学習を関連付けて学びを深めることが難しいという課題があった。そこで、学習過程の系統性を再整理したたたき台では、各領域で共通する要素や異なる要素を意識できるようにした。これにより例えば、「書くこと」の領域にある「考えの形成」の学習過程は、「話すこと」にもある「考えの形成」の学習過程でも生かせることが視覚的に分かるなど、領域をまたがって活用し、概念の獲得や意味理解を含む深い学びにつながることが期待される。

 また、現在の発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性は、各領域の言語活動例の種類の示し方が「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域別に整理され、言語活動や学校段階に応じて扱う話や文章などの種類を例示しているが、各活動で扱っている話や文章の種類を関連付けて学びを深めることが難しかったり、目的を意識せず文章の種類ごとに活動を細分化して指導してしまったりしている実態が見受けられた。

 その改善のため、発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性を再整理したたたき台では、新たに実社会で話したり書いたりする目的を▽情報の伝達▽他者の説得▽感動の共有――に、聞いたり読んだりする目的を▽情報の獲得▽他者の主張の吟味▽感動への共感――などと明確にし、これらの目的と領域を掛け合わせて、話や文章の種類を系統的に示すことを提案した。

 学習過程の系統性を再整理したたたき台について、児玉忠委員(宮城教育大学教授)は「現行の学習指導要領は、特に中高の単元指導において1単元1領域でやらざるを得ず、関連が図りにくい問題があった。それが今回は非常に共通化・簡素化することで、領域間を関連付けやすくなっている点で非常に期待できる。そうはいっても中高はコンピテンシーベースで領域をつなぐだけではなかなかうまくいかず、コンテンツベースで単元を作らざるを得ないが、今後の検定教科書の作り方に対し、一定の刺激になるのではないか」と評価した。

 発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性を再整理したたたき台に関して、井上志音委員(灘中学校・灘高校教諭)は「これまでは基本的に紙の教科書を前提にした言葉の作品を扱ってきたが、これからはデジタル教科書の拡充も含めて紙では扱いきれないような、より生徒の実生活に密接に関わるようなさまざまな言語作品も国語で扱っていけばいいのではないかと思っている。これまでも教科書上では漫画などが扱われ、高校(の教科書)では実用文も載っているが、これからはイラストや演劇、ドラマ、戯曲、映画、音楽、アニメ、お笑いなども教材になり得る」と、想定される多様な教材のイメージを挙げた。

思考力を育成する「書くこと」の体系化

 この日の会合では、国語教育の系統性について石黒圭主査代理(人間文化研究機構国立国語研究所教授)、犬塚美輪委員(東京学芸大学教育学部教授)、渡邉雅子委員(名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授)が発表を行った。

 言語技術教育の立場から言語活動の各領域の系統性を解説した石黒委員は、思考力は「書くこと」「話すこと」に加えて「話し合うこと」で言語化されるとし、特に教育における「書くこと」の活動の体系化では、自己の考えに形を与え、その考えを構造化し、読み手に分かるように調整する一連のプロセスの整理が必要だと提案。「生成AIの時代だから『書くこと』が少なくなると考える向きがあるかもしれないが、実は生成AIの時代だからこそ、『書くこと』に力を入れた教育が大事だと私は考えている」と強調した。

 渡邉委員は国語の教科書について、「他の国と比較しても非常にレベルが高い。すでに語学学習に必要不可欠な多様な要素を系統的、発達段階的に配置している。課題は、カリキュラムの編成原理だ。具体的には教科書の構成原理になると思うが、その骨組みを浮かび上がらせることにある。その原理を現場の教師と共有することで、教科書『を』教えることから、教科書『で』教えることが可能になるのではないかと考えている」と話し、校種を超えて国語教育の目標・目的の共有が求められるとした。

 その上で渡邉委員は作文教育について、描写、物語、説明、説得の基本となる4つの文章様式に加え、論証としての意見文、科学的探究としての仮説検証、社会科学的思考としての小論文を段階的に習得することを提案。さらに高校では、各文章様式の目的と手段をレトリックとして俯瞰(ふかん)的に教えるべきだとした。

 心理学の観点から「読むこと」を分析した犬塚委員は、流暢(りゅうちょう)に読めていることは「読解を支える要素にはなるが、十分条件ではない」と指摘。文章を理解するには、読むための主体的な取り組みである「読解方略」が必要だとし、この「読解方略」の効果的な指導を位置付けるべきだとした。

【キーワード】

教科書 正式には「教科用図書」という。小、中、高校、それに準じた学校で、教科の主たる教材として使用義務がある児童生徒用の図書。民間が発行し、文部科学省の検定に合格した検定済み教科書と、同省が著作の名義を有する文部科学省著作教科書がある。

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